現在我が国で年間127万人が亡くなっていますが、下のグラフを見ていただくと、肺炎による死亡(グラフの中の赤い部分)は死亡全体の約1割を占めており、特に80歳以上くらいの高齢者では肺炎による死亡の割合が高くなります。また、肺炎で亡くなる人のほとんどが高齢者であることを考えると、肺炎は高齢化社会では特に重要な死因となりうる病気の一つといえます。
加齢と共に多くなる肺炎の多くは、細菌などの病原微生物が肺に到達しておこります。元来肺や気道には病原体に対する防御機構が備わっていて、病原体から体を守っていますが、加齢や病気などによって防御機構が弱まることが肺炎の発症に重要な役割を果たしています。
次に肺炎の発症にとって重要な肺の防御機構にはどのようなものがあるか、見てみましょう。
食べたもの、あるいは口の中にたまった唾液などを食道や胃に通過させ、気道や肺に入らないようにするための機能です。これらの機能が低下すると、口のなかのものや食べ物などが気道や肺に入り込みやすくなります。これを誤嚥(ごえん)と言いますが、この誤嚥や咳反射(異物が気道に入りそうになると咳を誘発することで気道から排除しようとする反射)の低下が高齢者に多い肺炎の最も重要な原因です。健康な人も誤嚥することがありますが、例えば脳梗塞などの病気があると誤嚥しやすくなり、また、咳反射も低下するため、肺炎がおこりやすくなるといわれています。
食事中によくむせる人は誤嚥している可能性が高く、肺炎になる危険がより高いと言われていますが、むせたりしない場合でも誤嚥していることもあるので注意が必要です。逆に、仮にある程度誤嚥しても、その他の肺の防御機構がしっかり働いていれば、肺炎にならずに済みます。
一般的に、高齢であっても、元気が良ければ良いほど肺炎になりにくいと言えます。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、太い気道にはせん毛と呼ばれる細かい「毛」が生えていて、しかもその毛がひっきりなしに動いていて気道に入ってくる異物や病原体などを気道の外に排除しています。このせん毛運動も病原体微生物から肺を守るのに重要な役割を果たしています。
せん毛運動は加齢によりやや低下すると言われていますが、それ以外に喫煙によりせん毛やせん毛運動が障害されることが知られています。これが喫煙する人は喫煙しない人に比べて肺炎になりやすい一因です。また、インフルエンザにかかると肺炎になりやすくなりますが、その主な理由の一つがインフルエンザの感染により気道のせん毛がはがれ落ちたり、動きが悪くなったりするためです。
肺に病原微生物が入ってきてもすぐに肺炎になるわけではなく、いろいろな免疫機構が病原微生物を排除したり抑えたりして肺炎にならないようにしています。いろいろな免疫機構がありますが、病原微生物に対する抗体を前もって作っておくことで病原体の侵入に備えておく手段の一つにワクチンがあります。このワクチンも肺炎の予防に有効です。
先ほど述べましたが、インフルエンザに罹ると肺炎になりやすくなりますので、インフルエンザの予防は重要です。そのため、毎年インフルエンザのワクチン接種されることをお勧めします。
肺炎の原因となる病原微生物が多数あるなかで、肺炎球菌は最も頻度が高くて重要ですが、この肺炎球菌に対するワクチンがあり、この肺炎球菌ワクチンを接種することで肺炎に罹る危険性が低くなります。報告によっては肺炎の危険性が4割減った、というものもあります。肺炎球菌ワクチンは一度接種すると5年間有効とされております。ご存知かもしれませんが、平成26年10月からは65歳以上の方に対して肺炎球菌ワクチンが定期接種の対象となりました。
肺炎の予防にはいくつかのことが有効であることがわかっていますので、そのいくつかを紹介します。
✔口の中を清潔に保つこと
誤嚥すると肺炎になるのは、誤嚥したものの中に肺炎の原因となる微生物が多く含まれているためであり、歯磨きや入れ歯の手入れや口の中の清掃をすると肺炎の原因となる病原微生物が減少し、肺炎の予防につながります。特に誤嚥は就寝中に起きやすいので、寝る前には口の中を清潔にしておくことをお勧めします。
✔適切な生活習慣を持つこと
適切な生活習慣とは
肺炎に関しては太りすぎより痩せすぎで死亡率が上がります
✔ワクチン
インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは肺炎予防に有効です